DMARCを設定していないと、
あなたの会社になりすませる

2026年10月 アウタボックス株式会社

この記事の目的

前回の調査で、日本企業2,000社の78%がなりすましメールを技術的に阻止できる設定になっていないことがわかった。

「うちはそんなに重要な会社じゃないから大丈夫」と思うかもしれない。

この記事では、DMARC・SPF・DKIM が設定されていないと具体的に何が起きるのかを、メールの仕組みから解説する。攻撃手法の詳細ではなく、なぜ設定しないと危険なのかを理解するための記事である。


メールの「差出人」は自己申告である

メールの差出人(From)は、送信者が自由に書ける。

これは設計上の問題ではなく、メールというシステムの仕様である。1982年に策定された RFC 822 以来、メールの From フィールドは送信者が任意に指定できる。封筒に書く差出人を自由に書けるのと同じ構造である。

つまり、何も対策をしていなければ、誰でも「あなたの会社のメールアドレス」を From に書いてメールを送信できる。


具体的に何が起きるか

ケース1:取引先への偽メール

あなたの会社が example.co.jp というドメインを使っているとする。DMARC が設定されていない場合、第三者が以下のようなメールを送信できる。

From: 経理部 <keiri@example.co.jp>
To: 取引先の担当者
件名: 振込先口座の変更のお知らせ

いつもお世話になっております。
弊社の振込先口座が変更になりましたので、
次回のお支払いより下記口座へお振込みください。

受信側のメールサーバーは、このメールが本当に example.co.jp から送られたかどうかを確認する手段がない。これがビジネスメール詐欺(BEC)の基本構造である。

ケース2:顧客へのフィッシング

From: サポート <support@example.co.jp>
To: 顧客
件名: 【重要】パスワードの再設定をお願いします

セキュリティ強化のため、以下のリンクからパスワードを再設定してください。
https://example-co-jp.attacker.com/reset

ケース3:社内への偽メール

From: 社長 <shacho@example.co.jp>
To: 経理担当者
件名: 至急の送金依頼

急ぎで以下の口座に送金してください。
本件は口外しないでください。

なぜ「From を自由に書ける」のか

メールの送信は2つの段階がある。

1. エンベロープ(封筒)

MAIL FROM: <attacker@evil.com>    ← 実際の送信元
RCPT TO: <target@victim.co.jp>

2. ヘッダー(手紙の中身)

From: 経理部 <keiri@example.co.jp>    ← 表示される差出人(自由に書ける)

受信者が見るのはヘッダーの From だけ。封筒の差出人は attacker@evil.com なのに、便箋には keiri@example.co.jp と書いてある。受信者は便箋しか見ない。


SPF・DKIM・DMARC は何をするのか

SPF(Sender Policy Framework)

「うちのドメインからメールを送っていいサーバーはこれだけです」と DNS で宣言する。

example.co.jp.  IN TXT  "v=spf1 include:_spf.google.com -all"

ただし SPF だけでは不十分。 SPF が検証するのはエンベロープの差出人(封筒)であり、ヘッダーの From(便箋)は検証しない。

DKIM(DomainKeys Identified Mail)

メールに電子署名を付けて、改ざんされていないことを証明する。ただし DKIM だけでも不十分。 DKIM は署名のドメインとヘッダー From の一致を強制しない。

DMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting and Conformance)

SPF と DKIM を結びつけて、ヘッダーの From(受信者が見る差出人)が本物かどうかを判定する仕組み。

_dmarc.example.co.jp.  IN TXT  "v=DMARC1; p=reject; rua=mailto:dmarc@example.co.jp"
ポリシー動作
p=reject受信サーバーがメールを拒否する
p=quarantine迷惑メールフォルダに入れる
p=none何もしない(素通し)

p=none は「設定した」とは言えない

前回の調査で、日本企業の56.2%が p=none だった。

p=none は「DMARC に対応している」と言えるのか。言えない。

p=none は受信サーバーに「検証に失敗しても何もしなくていい」と伝えている。これは鍵をかけずに「防犯対策をした」と言っているのと同じである。


「うちは小さい会社だから狙われない」は間違い

サプライチェーン攻撃

大企業を直接狙うのは難しい。そこで攻撃者は、取引先の中小企業のドメインを騙る。

攻撃者 → 中小企業A のドメインを騙る → 大企業B に偽の請求書を送る

被害を受けるのは大企業Bだが、踏み台にされるのは中小企業Aである。

中小企業Aは直接の金銭被害を受けないかもしれない。しかし、「あなたの会社のドメインが詐欺メールに使われた」と判明した時点で、取引関係に影響が出る。


設定にかかるコスト

DMARC の設定自体にかかる費用はゼロである。DNS の TXT レコードに1行追加するだけ。

_dmarc.example.co.jp.  IN TXT  "v=DMARC1; p=reject; rua=mailto:dmarc-report@example.co.jp"

ただし、いきなり p=reject にするのは推奨しない。 推奨される手順:

  1. p=none + rua=(レポート送信先)を設定する
  2. レポートを数週間〜数ヶ月監視する
  3. 正規のメールが SPF/DKIM を通過していることを確認する
  4. p=quarantine に変更する
  5. 問題がなければ p=reject に変更する

自社の設定を確認する方法

DMARC の確認

# Mac / Linux
dig TXT _dmarc.あなたのドメイン

# Windows
nslookup -type=TXT _dmarc.あなたのドメイン

SPF の確認

dig TXT あなたのドメイン

結果に v=spf1 が含まれていれば設定されている。末尾が -all なら厳格、~all ならソフト。


まとめ

状態あなたのドメインでなりすませるか
DMARC なしはい。誰でもできる
DMARC p=noneはい。設定はあるが止めていない
DMARC p=quarantine難しい。迷惑メールに入る
DMARC p=reject非常に難しい。受信サーバーが拒否する

前回の調査では、日本企業2,000社の78%が「はい」に該当する状態だった。

DMARC の設定はコストゼロでできる。あなたの会社のドメインが、取引先や顧客へのフィッシングメールに使われる前に、まず自社の設定を確認してほしい。


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